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東京地方裁判所八王子支部 平成8年(ワ)861号 判決

主文

一  甲事件被告らは各自甲事件原告通山和子に対し、金三一三万〇一七五円及びこれに対する平成七年五月二四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  甲事件被告堀越圭子は甲事件原告通山和子に対し、金三二万三四〇〇円及びこれに対する平成七年五月二四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  乙事件被告通山和子は乙事件原告千代田火災海上保険株式会社に対し、金四万六四二八円及び内金四万二二〇七円については平成七年五月二四日から、内金四二二一円については平成九年二月六日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  甲事件原告通山和子及び乙事件原告千代田火災海上保険株式会社のその余の各請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用はこれを四分し、その一を甲事件原告(乙事件被告)通山和子の、その余を甲事件被告ら及び乙事件原告千代田火災海上保険株式会社の各負担とする。

六  この判決は、甲事件原告通山和子及び乙事件原告千代田火災海上保険株式会社の各勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

1  甲事件被告ら(以下、単に「被告ら」という。)は各自甲事件原告(乙事件被告。以下、単に「原告」という。)に対し、金四一七万三五六七円及びこれに対する平成七年五月二四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  甲事件被告堀越圭子(以下、単に「被告圭子」という。)は原告に対し、金四三万一二〇〇円及びこれに対する平成七年五月二四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

原告は乙事件原告千代田火災海上保険株式会社(以下、単に「原告会社」という。)に対し、金二一万八八二七円及び内金一六万八八二七円については平成七年五月二四日から、内金五万円については平成九年二月六日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二当事者の主張

一  甲事件

1  請求原因

(一) 事故の発生

(1) 発生日時 平成七年五月二四日

(2) 発生場所 東京都町田市三輪緑山一-三-二緑山ヒルズ(マンション)内の地下駐車場(以下「本件駐車場」という。)

(3) 事故車両

原告運転の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)

被告圭子運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)

(4) 事故態様

原告車が本件駐車場の中央通路を後方を確認しながらバックして来たところ、一旦自己の駐車区画(第一八区画)に入っていた被告車が、切り返しで入れ直そうと突然右通路に出て来て原告車の進路を妨害したため、原告車の左側面後部と被告車の左前部が衝突して、原告車は左後部凹損ほか、左側面部を破損し、かつ、原告は後記傷害を負った(以下「本件事故」という。)。

(二) 原告の受傷及び治療

本件事故により原告は、胸部挫傷及び頸部捻挫の傷害(以下「本件傷害」という。)を負い、次のとおり治療を継続している。

(1) 北里大学病院(平成七年五月二九日外二日) 通院日数三日

原告は本件事故後、胸の強い圧迫感や痛み、呼吸困難によって息が止まるような苦しみや吐き気、喉の異物感、頭痛などを覚え、本件事故の五日後の右同日本件傷害の治療を受け、また、診断書を書いて貰うために二日通院した。

(2) 低周波による治療(健康サロン縦の木)(同月三〇日から同年八月二六日まで) 通院日数三九日

本件傷害による自律神経失調症の各症状を軽減するための治療であった。

(3) 浅井鍼灸センター(同年八月二九日から同九年五月三一日まで) 通院日数九四日

原告は当時、不眠、食欲不振、吐き気、腹痛、胸部しめつけによる呼吸困難、頸・肩・背中のこりと痛み、腰痛等の症状があり、頸腕症候群、腰痛等の治療であった。

(4) 昭和大学病院(同七年九月六日、同月一八日、同月二〇日、同八年三月二一日、同九年五月一六日、同年六月四日) 通院日数六日

原告は当時、胸がギューッと下から押え付けられている感じがあり、その圧迫感で正に息が止まるかと思うほど苦しく、吐き気、頭痛もひどかったので、MRIの検査を受けた。

(5) 多摩丘陵病院(同八年一〇月二二日から同九年六月九日まで) 通院日数八日

原告は当時、胸部の痛み、不眠等に強く悩まされ、心電図を撮った。

(三) 責任原因

(1) 被告圭子は、前記(一)(4)記載のとおり、被告車を運転して一旦自己の駐車区画(第一八区画)に入ったところ、中央通路に出る際には、同通路を走行する車両の進行を妨害しないよう左右を見て、右走行車両が存在しないことを確認したうえ進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と、被告車を切り返しで入れ直そうと同通路に飛び出して進入した過失によって、同通路を後退して来た原告車の進路を妨害して原告車と衝突し、本件事故を惹起せしめたものであるから、不法行為による損害賠償責任を負う。

(2) 被告堀越哲雄(以下、単に「被告堀越」という。)は、被告車の所有者(運行供用者)であるから、自賠法三条により、物的損害を除くその余の損害につき賠償責任を負う。

(四) 損害 合計四六〇万四七六七円

(1) 原告車の損傷による損害 修理代金三九万二〇〇〇円

(2) 本件傷害による損害

〈1〉 治療費等(本件傷害の治療のための前記北里大学病院外四箇所の病院等での通院による治療費及び診断書・文書料) 合計六七万九二四四円

〈2〉 通院交通費 一一万七一五〇円

〈3〉 休業損害 一四五万七七五八円

原告は本件事故当時昭和一八年一〇月三日生まれの健康な主婦であったが、前記実通院日数の一五〇日と苦痛のためほとんど動くことができなかった一四日合計一六四日は、本件傷害により稼働できなかったものであり、その休業損害は、三二四万四四〇〇円(平成六年女子労働者学歴計・年令計の賃金センサスによる年収)×一六四日÷三六五日≒一四五万七七五八円と算定される。

〈4〉 通院慰謝料(通院期間五二五日[実通院日数一五〇日×三・五]) 一五四万円

〈5〉 弁護士費用(損害額の一割) 四一万八六一五円

(五) よって、原告は、被告ら各自に対し、右(2)の損害(ただし、弁護士費用は、うち三七万九四一五円)合計四一七万三五六七円、被告圭子に対し、右(1)の損害及び〈5〉の弁護士費用のうち三万九二〇〇円合計四三万一二〇〇円の賠償及び遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)(1)ないし(3)の事実を認めるが、同(4)の事実を否認し、同(二)の事実は不知、同(三)の事実及び主張を争い、同(四)の事実を否認する。原告の治療の長期化は、既往症及び心因性によるものであるから、治療費等は減額されるべきである。また、休業損害については、原告が通院した日が全面的に主婦としての稼働できなかったものではなく、せいぜい三分の一程度の阻害割合である。

(二) 本件事故の態様は、被告圭子が被告車を自己の駐車区画(第一八区画)に後退して駐車しようとして一旦停止し、原告車の後退に対応して待機していたところ、原告車が後退して来て原告車左後部を被告車右前部に衝突(後突)させたものである。

3  被告らの主張

本件事故は、原告車が本件駐車場の中央通路を後退走行した際生じたものであるが、このような後退走行の場合、原告は、被告車が自己の駐車区画への車庫入れを完了したことを確認したうえ、被告車と接触しないように通過すべき注意義務があるところ、原告には右注意義務を怠った過失がある。

二  乙事件

1  請求原因

(一) 平成七年五月二四日本件事故(ただし、事故態様は、前記一2(ニ)記載のとおりである。)が発生したが、原告会社と被告堀越哲雄(被害者被告圭子の夫)は被害車両(被告車)に関し車両保険契約を締結していたため、原告会社は同年一二月二六日本件事故による被告車の修理代金一六万八八二七円を被告堀越に支払った。

(二) この結果原告会社は、被告堀越の原告に対する損害賠償請求権に代位した。

(三) よって、原告会社は原告に対し、前記修理代金相当額及び弁護士費用五万円の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

請求原因(一)の事実中、本件事故発生の事実(ただし、事故態様を除く。)を認め、その余の事実は不知、同(二)及び(三)の事実及び主張を争う。

第三当裁判所の判断

一  甲事件

1  請求原因(一)(1)ないし(3)の事実は当事者間に争いがない。

2  事故態様について

証拠(甲一、三、四、六、七、一二、一四、一五の1、2、一七、一八の1、2、乙一[一部]、二[一部]、三、四、五[一部]、丙一の1ないし3、原告、被告[一部])によれば、原告は原告車を運転して本件駐車場の中央通路(幅員約五・七メートル)中央付近を、後方に車両がないことを確認したうえ時速約五ないし七キロメートルで原告の駐車区画(第三四区画)に向かって(頸部を右後向きにし、腰をやや浮かせた運転姿勢で)後退していたところ、右第三四区画の反対側手前にある被告らの駐車区画(第一八区画)に既に一旦入っていた被告車が、切り返しで入れ直そうと右通路に右斜めの方向に出て来て原告車の進路を妨害したため、被告車の左前部(主に左前部バンパー部分)が原告車の左側面後部(主に左後部バンパー部分)に衝突した(なお、衝突後の停止位置は、原告車は衝突後約二・五メートル被告車と接触しながら少し後方右側に振れた形で走行[後退]した地点、被告車は首を右方向に振り若干前にせり出した地点である。)こと及び原告車は左後部凹損ほか左側面部、被告車は左フロントバンパー・フェンダー等を破損したことが認められる。被告らは、被告圭子が被告車を被告らの駐車区画に後退して駐車しようとして一旦停止し、原告車の後退に対応して待機していた(即ち、前進していない)ところ、原告車が後退して来て原告車左後部を被告車右前部に衝突(後突)させた旨主張し、被告圭子は、被告車を自己の右駐車区画に入れようと後退中、入れ直す必要が生じたため被告車を切り返すべくそのまま一旦停止したところ、そこに原告車が衝突して来た旨供述し、前掲乙五号証にも同趣旨の記載部分があり、また、前掲乙二号証には被告車が前進した証拠がない旨の記載部分があるが、乙二号証の右記載部分の説明・論拠は必ずしも明確ではないうえ、右各供述部分及び記載部分は、右認定の原告車及び被告車の衝突部位、損傷部位・程度、衝突後の接触部位及び停止位置・状況に徴して、また、前掲各証拠と対比して俄に措信し難く、他に、これを認めるに足りる証拠はない。右認定の事実によれば、被告圭子は、被告車を運転して既に一旦被告らの駐車区画(第一八区画)に入ったのであるから、再度中央通路に出る場合には、同通路を走行する車両の進行を妨害しないよう左右を見て、右走行車両が存在しないことなどを確認したうえ進出すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と、被告車を切り返しで入れ直そうと同通路に進出して来た過失によって、同通路中央付近を走行(後退)していた原告車の進路を妨害して原告車に衝突したものであるから、被告圭子には、右注意義務違反の過失があると言うべきである。

3  過失相殺について

右認定の事故態様に鑑みれば、本件事故は、原告車が原告の駐車区画(第三四区画)に向かって本件駐車場の中央通路を後退走行した際生じたものであるが、証拠(前掲甲一二、一四、原告、被告)によれば、原告は右後退時後方に車両がないことを確認したものの、先行していた被告車が直前に、右第三四区画の反対側手前にある被告らの駐車区画(第一八区画)への車庫入れをしていたことを認識していたのであるから、このような状況で後退走行する場合、被告圭子の右第一八区画への車庫入れが完全に終了したかどうかなどその動静を確認しながら、被告車と接触しないようにその側方を通過すべき注意義務があると言うべきところ、原告は後退走行途中から第三四区画に目線を移したことが認められるのであるから(前掲甲一二、一四、原告)、原告においても右注意義務を怠った過失がある。そして、その過失割合は、進出車(被告車)七・五に対し、後退車(原告車)二・五とするのが相当であるところ、これを修正すべき特段の事情は窺われない。

4  損害について

(一) 証拠(甲二、六ないし一二、一九、二一ないし五三、乙三、四、原告)によれば、請求原因(二)(原告の受傷及び治療)の事実、原告車の前記損傷についての修理代金は三九万二〇〇〇円、治療費等(本件傷害の治療のための北里大学病院外四箇所の病院等での通院による治療費並びに診断書・文書料)は合計六七万九二四四円及び通院交通費は一一万七一五〇円と認めることができる(なお、低周波による治療については、原告が医師にそれまでのこの方法による治療を告げた際中止等の指示はなかったことが認められるから、本件傷害に対する有効かつ相当な治療方法と認められる。)。

(二) 休業損害については、証拠(甲一二、一三、一九、原告)によれば、原告は本件事故当時昭和一八年一〇月三日生まれの健康な主婦であったが、本件傷害により、前記実通院日数の一五〇日と苦痛のためほとんど動くことができなかった一四日合計一六四日は、家事労働がほとんどできなかったものと認めるべきであるから、その休業損害は、三二四万四四〇〇円(平成六年女子労働者学歴計・年齢計の賃金センサスによる年収)×一六四日÷三六五日≒一四五万七七五八円と算定される。

(三) 通院慰謝料については、通院期間は五二五日(前記認定の実通院日数一五〇日×三・五、約一七・五か月)であるところ、諸般の事情を考慮し、一四九万円(一五か月分)+(二万円×二・五か月)=一五四万円と算定される。

5  右4認定の損害額の合計は四一八万六一五二円となるのであるが、前記3に認定した過失相殺における原告の過失割合二割五分を適用すると、被告圭子が前記不法行為により賠償すべき損害額は三一三万九六一四円(四一八万六一五二円×〇・七五)と算出される。

6  以上により、被告圭子は不法行為により、右三一三万九六一四円の支払義務を負い、被告堀越哲雄は被告車の所有者(運行供用者)であるから(乙二)自賠法三条により、物的損害を除くその余の損害二八四万五六一四円につき支払義務を負う(ただし、右二八四万五六一四円につき被告らの連帯支払義務)。

二  乙事件

本件事故発生の事実(ただし、事故態様を除く。)は当事者間に争いがなく、証拠(丙一の1ないし3)によれば、原告会社と被告堀越(被告圭子の 夫)は被告車に関し車両保険契約を締結していたため、原告会社は同年一二月二六日本件事故による被告車の前記損傷についての修理代金一六万八八二七円を被告堀越に支払った事実を認めることができ、したがって、原告会社は、被告堀越の原告に対する損害賠償請求権に代位したものと言うことができる。ところで、前記一2及び3に認定したとおり、本件事故における原告車と被告車との衝突については、原告の過失行為及び被告堀越側(被告圭子)の過失(その過失割合は七割五分)が認められるから、右損害賠償額は四万二二〇七円(一六万八八二七円×〇・二五)と算出される。

三  結論

以上により、甲事件原告の請求は、甲事件被告ら各自に対し、前記二八四万五六一四円並びに弁護士費用二八万四五六一円(右認容額の一割)合計三一三万〇一七五円及びこれに対する平成七年五月二四日から完済まで年五分の割合による遅延損害金、甲事件被告圭子に対し、前記二九万四〇〇〇円並びに弁護士費用二万九四〇〇円(右認容額の一割)合計三二万三四〇〇円及びこれに対する右同日から完済まで右同割合による遅延損害金、乙事件原告会社の請求は、乙事件被告に対し、前記四万二二〇七円並びに弁護士費用四二二一円(右認容額の一割)合計四万六四二八円及び内金四万二二〇七円に対する右同日から完済まで右同割合による遅延損害金、内金四二二一円に対する平成九年二月六日から完済まで右同割合による遅延損害金の各支払いを求める限度ではそれぞれ理由があるからこれらを認容し、甲事件原告のその余の請求及び乙事件原告会社のその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとする。

(裁判官 樋口直)

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